時節にあったテーマを卒業生とともに議論する場として、コース終了後も学び続ける場を提供するSHC Café。
今回は、「フットボールクラブ マルチオーナーシップとニュービジネス」と題して、SHC修了生の小野寛幸氏、飯塚晃央氏をゲストにお迎えして、イベントを開催。
シンガポールを拠点とし、アジア発のマルチクラブオーナーシップを企図するサッカー事業会社ACA Football Partners Pte. Ltd.(以下「ACAFP」)でご活躍されるお二人から、フットボールクラブ経営の本質と、マルチクラブオーナーシップやAI、WEB3等を用いた新たなビジネススキームについて学んだ。
【イベント概要】
SHC Café「フットボールクラブ マルチオーナーシップとニュービジネス」
日時:2022年6月14日火曜日 19時30分〜21時30分
場所:ハイブリッド開催(コングレスクエア日本橋/ZOOM配信)
ゲスト:
小野 寛幸氏
Board of Director / CEO in ACA Football Partners Pte. Ltd.
Vice Chairman in KMSK Deinze
2011年にACA株式会社に入社、日本及び東南アジアの投資案件発掘、投資実行業務に従事。その後、ACA Investments Pte. Ltd.へ転籍。日本発ユニコーン企業SmartNews社のシリーズEラウンドとシリーズFラウンドの投資を実行し、同社の米国事業加速をサポートするなど、累計ファンド組成額は250億円超。
オランダJohan Cruyff Institute・SHCでスポーツビジネスの研鑽を積み、現職に至る。
飯塚 晃央氏
COO (Chief Operating Officer) in ACA Football Pertners Pte. Ltd
CSO (Chief Strategy Officer) in KMSK Deinze
楽天株式会社の経理部門にて、楽天ポイントや税務を経験。その後楽天トラベルで経理グループのマネージャーに就任。出向者として『ヴィッセル神戸』にて経理総務として2年間勤務したことより、フットボール業界の課題解決に注力することを決意。2018年SHCに通い、卒業時SHCからの紹介で『シント=トロイデンVV』に就職。CFOとして、管理部門の管掌とビジネス側のKPI管理など、ベルギーのプロフットボールクラブ経営に携わる。2021年に退職後、ACA Football Partnersに参画。
進行: 西野 努(SHC)
| Football 3.0 カンパニー
『ACAFP』は、既に買収した、ベルギーサッカー・プロリーグ2部に所属する『KMSK Deinze』を核に、フットボールクラブを複数買収し、マルチクラブオーナーシップ構想を持ち、フットボールをスポーツ文脈だけでなく、メディアとして捉え、Web3やAIと事業連動させることで、より広範なファンベースを構築し、魅力あるフットボールを届けることを目的とする「Football 3.0 カンパニー」と定義している。
| 新たな価値サイクルの創出
「クラブ経営をしていく上で、どういうビジネスモデルで、どこでお金が生まれて、どこにお金がかかり、それをどうやって評価するのかを認識していくことから始めた」
小野氏は、フットボールクラブ経営の主な課題として、「売上と強化費のバランス」「トップラインをどのように伸ばすか」「どのようにしてファンの目や耳を集めていくか」を捉え、その課題は新たな価値サイクルを創出することにより、解決できるのではないかと説いた。既存の価値サイクルは、選手を獲得してクラブが強くなり、それを源泉として、クラブ自体の格や人気を上げ、グローバライゼーション、テクノロジーによる補完をすることで、放映権拡大やスポンサー収入増加に繋がり、そのサイクルでまた有能な選手を獲得できるものだという。『ACAFP』はこのサイクルに新規参入しても、勝つこと、そしてビジネスとして成立させるは難しいと判断して、フットボールビジネスの本質を再考。「地域コミュニティを巻き込み、クラブを盛り上げていく」この点をビジネスサイドで強化、認識、定義し、コンテンツを配信するOTTやメタバースなど人の目や耳を集める仕組みでメンバーシップ化し、フットボールビジネスを「コンテンツフットボールメディア」と再定義。ブロックチェーン技術を組み合わせたオンラインゲームPlay & Earn(遊んで稼ぐ)を活用し、ゲームをプレイする人に対して報酬を与える仕組みで、ファンのスタジアムに行く動機付けを考えるなど「世界にシームレスなスタジアム体験を提供する」、それが『ACAFP』の挑戦と述べた。
| マルチクラブオーナーシップ
世界的に有名MCOである『シティ・フットボール・グループ』『レッドブルグループ』とは違うストラクチャーで挑戦する『ACAFP』のMCO。いわゆる「相互補完」、ボトムアップ型の構造で、補完するアライアンスをグローバル展開する構想である。
- 効率的なデータマネジメント
:それぞれの国におけるスカウンティングや選手データをセントラライズする。
中央集権的なシェアリングにより、最小のリソースで最大限のデータマネジメントが
実現できる。
- ビジネス機会の創出
:フットボールを「メディア」と再定義して、グローバル市場でコンテンツを発信。
例えば、「なぜベルギーの田舎クラブに協賛するのか?」「日本企業のヨーロップ市場
進出という文脈での訴求難易度の向上」という課題に対して、複数の国・複数クラブ
をパッケージとしてスポンサーシップの最大化、商業的価値を推し出せる。
- グループ事業としてのレバレッジ
:複数クラブを束ねることでバリュエーション向上を見込んでいる。
「フットボール×OTT」、「フットボール×WEB3」、「フットボール×AI」など、
掛け合わせるものの大きさをグループ化することで、レバレッジがかけられる。
| データとスポーツサイエンス
旧来のサッカーチームの運営課題として、「個人の経験や勘、人脈に基づくスカウト」「政治的な移籍決定」「可視化されていない定性的な評価での育成」などがあった。
ようやくデータ志向に変化してきた潮流にのり、「統計数値・映像解析によるスカウティング」「比較軸を明確にしたマッチングによる移籍」「データファクトに基づいたフィードバックによる育成」を実現、5大リーグクラブに引けを取らない運営を目指すという。
ゲストによるインプットの後は、卒業生同士の「グループワーク」、ゲストと卒業生による「QAセッション」が行われ、新たなビジネススキームについて白熱の議論となった。
小野氏は、「学びを共にした卒業生からの質問は鋭く、『ACAFP』事業を初めて聞く方が気になる点を今一度確認できたことが良かった。これ自体が「ライブドキュメンタリー」であり、「プロセスエコノミー」。ぜひどこかで人生が交差することを楽しみにして、一緒にサッカー界・スポーツ界を盛り上げていければ」と語った。
飯塚氏は、「SHCは好きなコミュニティで、卒業の時に決意表明した「当事者意識の及ぶ範囲を広げる」を実現すべく、行動している。スポーツ界に課題認識をもって、真剣に取り組む稀有なコミュニティであるSHCの役に立てるよう、スポーツ界を良くできるよう、本気で日々頑張っていきたい」と締めた。